恋文03|ヒマダコーヒーの話。


なにってまず、店名がずるい。



もしかするとはじめから

まんまと彼の手中にハマっていたのかもしれない。

(ちくしょう)



『ヒマダコーヒー』

どこか茶目っけがあって、ゆるさ120%。

なのに「コーヒー」なんてついてるもんだから

おまけに『HIMADA COFFEE』なんて英語表記まであるもんだから

自然なかっこよさをも感じさせる絶妙のバランス。



なんて愛らしい名前なの。




逗子駅からのんびり歩いて40分。

バスに乗れば早いもの

なんだかんだで、そこにはいつも歩いて向かう。

それもヒマダコーヒーの楽しみ方(わたし流)。


波音を聞きながら海沿いを歩いていたと思えば

少しの間、静かな山道に入って、しばらくするとまた海が見えてくる。

ヒマダコーヒーに着くまでにも

東京では得られない「ヒマ」を存分に感じられて

抜群に気持ちがいい。



ここにはじめて訪れたのは、ほんとに突然だった。

その日は、別の場所を目指して意気揚々と家を出たにも関わらず

(それも結構な早朝に)

電車の中で休みであることに気づいて頭は真っ白。

はて、どうしたもんか(とは言わないけど)

と途方にくれかけていたとき

どこからともなくふと、脳裏をよぎったのが




『ヒマダコーヒー』




このまま電車に乗っていれば葉山に行けるなあ。

なんてひらめいてしまったが最後、実行するのみ。



どうしてそのときその名前が思い浮かんだかって

たまたまっちゃ、たまたまなんだろうけど

遊び心ある店名が

無意識のうちに記憶の中に住みついていた何よりの証拠で

なんだかちょっと悔しい気もするけど



でもそれくらい、実は勝手に、この店名が好き。





朝からの長旅に心地いい疲れを感じながら

店の前にたどり着いた瞬間

ずっきゅーんって、胸が高鳴った。


向かいのお餅屋さんとは一線を画した白壁の外観に

きれいに並んだ4つの突き出し窓

そして、あの愛すべき店名が書かれた小さな看板。


カフェにはそう珍しい佇まいではないはずなんだけど

一瞬、店に入るのをためらうほど

なんかこう、トキメキみたいなものを感じて

必死で興奮をおさえたのを覚えている。




「来るべくして来たのかもしれない」




朝からの偶然を思い出したら

そんな根拠のない妙な自信すらわいてきて(笑)

女の直感ってヤツだったのかな、なんて

勝手に調子に乗ってみたりもする。

でも女の直感って、あたるっていうよね。





店の奥からはにかみ笑顔で迎えてくれた店主、通称KCさんは

ものすごくおだやかな出立ちで

「あぁ、”ヒマダコーヒーのひと”だ」って

初めて会うのに、なんだか勝手に納得しちゃったくらい。


そしてわたしは

ついさっきまでドキドキと感激すら覚えたはずの場所で

朝イチからがっつりナポリンタンを食べたの(笑)

(恋したら食欲がなくなるだなんて誰が言ったか)


自家製ベーコン

自家製ケチャップ

自家製手打ちパスタ


「自家製」が並ぶメニュー表に最初はびっくりして。

はらぺこだったのは言わずもがな

思わず頼まずにはいられなかったのもまた事実。


懐かしの喫茶店のそれとは全く別物なのに

どこか男らしさを感じる平たいパスタに

ごろっと肉々しいベーコンと

トマトの甘みがいっぱいのケチャップが絡んだ

ある意味すごくシンプルな、確かに、ナポリタンだった。

まだブランチにも早いくらいの時間、静かな店内でひとり

おいしくて夢中になって食べたなあ。




そんなKCさんの作るものは

粉のカタマリも、すんなり一筋縄に想像通りとはいかなくて。


プレーンもなければ、チョコとかレーズンとか定番ものもなく

ココナッツとにんじんがたっぷり入った

どこかエスニックでほんのり甘いスコーンが1種類。

添えるホイップはラムの香り、なんてのも粋。




「僕は、あたためずにポロポロ食べるのが好きなんです」




はじめて食べたとき

そう話してくれたことが印象に残っているからか

今でもそのままいただくことが、なんとなく多い。

バターとも小麦とも違う

ココナッツの優しい香りと甘みがすっかりクセになっている。


そんな自家製のあれこれも、一風変わったスコーンも

一見、すごく特別なものに見えるけど


通うたびに

もしかするとKCさんにとってはそんなに特別なことじゃないのかな

なんて思いが強くなる。


それが、彼のスタイルなんじゃないかな、なんて

最近は思っている。





「せかせかしなくていいじゃない」

「自分らしくでいいじゃない」





そんな言葉を投げかけられているような気がする。




この間は自家製チーズまで作ってたり

一見おなじように見えるスコーンも

あたためてももっと美味しく食べられるように

少しずつ変わってたりするのだけど

そうやって、ゆっくりでも

一つ一つ、一歩一歩、今あるものを進化させ続けることも

やっぱり彼のスタイルのひとつなのかも、なんて。



とうてい誰にでもできるものじゃない

KCさんの世界観で溢れている「ヒマダコーヒー」。



だからこそ、わたしは何度でもここに来たくなる。



じっくり丁寧に作られたものをいただきながら

ゆるやかに過ごす時間は

窮屈だった心に、いつもちょっとだけ「ヒマ」をくれる。




のんびり、焦らず、自分らしくいこうよ




そんな「ヒマ」を。




さあ、おいしい珈琲を飲んだら、また歩いて帰ろう。

それも、わたし流の「ヒマダコーヒー」の楽しみ方。




粉のカタマリ。

スコーンってほんと自由。 つくり手が「スコーン」と名付けてしまえば それがパンのようにふかふかであろうと クッキーのようにサクサクのぺったんこであろうと それは「スコーン」以外のなにものでもなくなるんだもの。 千差万別。 個性あふれる不思議な不思議な"粉のカタマリ"。 そこに込められた、店主のメッセージを 感じたい、伝えたい。

RIN

スコーンの人。
カフェエッセイの制作、ちょこっとライターもやってます。
スコーン求めて全国カフェ行脚。
ザクザク茶色い焼菓子とおいしいカレーが好き。