恋文01|たべものと日用品 WAOの話。



「申し訳ない~。」


それがこの店の第一印象。

というか、単なる店主の口癖(笑)



やわらかさのある澄んだ高めの声で

いつもニコニコ笑ってる、店主の和田さん。



客のわたしが思わず心配になるほど

とにもかくにも純粋無垢で。


まっすぐに、ひとを、ものごとを見て


今、目の前のことに、ワクワクしている。






「金町? どこそこ?」



東京に住んでいても聞きなじみのない街の名前。

降りたことのない駅。

そんな場所に『たべものと日用品WAO』はあって。




きっとみんな最初は、そんな見知らぬ土地に

「えいや!」って、ちょっとだけ重い腰を上げて訪れるのだけど

一歩店に足を踏み入れた瞬間

彼女が作り出す、アットホームでのどかな空気に

一瞬にして、引き込まれてしまう。




こっそり

彼女は人の心を緩ませる天才だと思ったりしている。





WAOには、幻のメニューがたくさんあるって知ってる?



メニューは店主からのメッセージだと思っている」なんて、話をしたけれど。


WAOのそれは

無邪気で天然な店主の気まぐれと、優しさの象徴だと思っていて。



お菓子に限らず

キッシュにビーフシチュー、御膳におでん会なんてのもしてたな。

次々に出てくる予想だにしないメニュー。


そんな新顔たちが出てくるたび

いつもふたことめには


「わたしが食べたくって」とか

「自分が大好きで」なんて言いながら


満面の笑みで笑ってる。



「余らないかなあ」「おいしいでしょー?」



まるでお客さんみたい(笑)

でもね、ほんとは、そのうしろに


「いつも来てくれるあの人が好きだから」とか

「金町にこういうお菓子がないから」とか

「みんなで祝日のお祝いがしたいから」とか


“金町のため”っていう気持ちがちゃんとある。


自分が食べたいのも、事実なんだろうけど(笑)


でもお店って、そういうもんだよね。

自分の「好き」がつまった場所。





はじめは笑ってたけど。


何か新しいことにチャレンジすること

おまけに思い立ったらすぐやってみることって


簡単に見えて、意外とできることじゃない。



「次はモンブランを作るんだ!」

「町のみんなでイベントをやりたい!」

「自分のお店は将来、こう変えようと思ってて」。



次々と成し遂げていく彼女のエネルギーに満ちあふれた姿が

わたしにはいつもキラキラと輝いて見える。



あんな小さな身体の

一体どこからそんなのエネルギーがわいてくるのだろうと

不思議に思うくらい。




心も体もめちゃくちゃパワフルなの。




ワオのスコーンは

ほぼふくらんでないくらい、みっちり粉が詰まっている。



出会ったころは

ワオギツネの焼き印がついたどら焼きが

この店の看板メニューだった。

(少なくともわたしはそう思っていた)

定番はチーズケーキとガトーショコラ。


食事メニューはなかったし

こんがり焼けた白パンのマフィンと

たまーにハードブレッドを焼いてた。

グラスデザートなんて思いもよらなかった。


気づけば、あれよあれよと、まさかのお米のカレーが始まって…。


それでもずっとずっと変わらず

一度も途切れることなく

この場所で作り続けているもののひとつが


みっちりつまった、粉のカタマリ。


華やかなお菓子を作ってみたり

手が回らなくなって、泣く泣くどら焼きを削っても

(でもあのときは結構ショックだったな…)




まるっこいスコーンは変わらず、

わたしたちを待っていてくれる。



この店の店主は、強い。


心配になるほど影響されやすいのに

ニコニコ笑ってるばかりなのに


その奥にはいつでも

「自分が、金町が、ワクワクしたい」っていう

ぶっとい、ぶっとい、芯をもっている。


だから、ワオのスコーンはーー

ううん、ほかのお菓子だってそう。


優しく見えて、ものすごく、力強い。




和田さんの粉のカタマリは

金町への確固たる”愛のカタマリ”の

シンボルなんじゃないかとさえ思う(笑)



全粒粉をいっぱいのゴツゴツのスコーン

ふちがカリッカリに焼けたおやつマフィン

銅板で焼くふかふかもちもちマフィン

みりんとお酢を間違えちゃうヘマもご愛敬の手作りのどら焼き



一見すごく地味で素朴で飾らないけれど

秘めた素材の味が、いっぱいいっぱい感じられて



ちょうどここに来ると

みんなが自然体になれるのとおんなじように

素材も自然体を引き出してもらえて、ワクワクしてるんじゃないかな。



単純にお菓子作りや

お店を楽しんでいるだけのように見えて

誰よりもエネルギッシュな野望を秘めている店主。



きっとまだまだ、心の奥底に隠している

わたしたちが計り知れない「ワクワク」させるたくらみ。



次はどんなワクワクをくれるのかな。


粉のカタマリ。

スコーンってほんと自由。 つくり手が「スコーン」と名付けてしまえば それがパンのようにふかふかであろうと クッキーのようにサクサクのぺったんこであろうと それは「スコーン」以外のなにものでもなくなるんだもの。 千差万別。 個性あふれる不思議な不思議な"粉のカタマリ"。 そこに込められた、店主のメッセージを 感じたい、伝えたい。

RIN

スコーンの人。
カフェエッセイの制作、ちょこっとライターもやってます。
スコーン求めて全国カフェ行脚。
ザクザク茶色い焼菓子とおいしいカレーが好き。